彼女は渡さない~冷徹弁護士の愛の包囲網

「もしかして君か……」

「お父さん、ここに来たの何年ぶり?」

「そうだな。少なくとも三年ぶりかもしれない。開設祝いに一度来たきりだ」

 私をじっと見つめている。前に出て挨拶した。

「はじめまして……弁護士秘書をさせて頂いております」

 名前は名乗れなかった。今の私は黒羽佳穂。でもきちんとご挨拶もしていない。認めてもらえないのはわかっていた。とにかく怖かった。

 蛍さんが話を引き取ってくれた。

「お兄ちゃんの弁護士秘書だよね」

「秘書は辞めさせてばかりだと言っていたが、君はよほどあいつにとって相性が良かったんだな。それでそういうことになったのかな」

「お父さん……」

 佐々木さんが私に目配せした。先生は来客中だ。私はメモを持って応接室に入ろうとした。

「櫂は来客か」

「はい。でもそろそろ終わるはずです」
 
「お兄ちゃんには私が行くことは昨日から伝えてあるけど、お父さんが来るとは伝えてなかったからちょっと怖い」

「どうぞお座りください」

 メモを入れた私の代わりに佐々木さんが二人にお茶を準備した。
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