彼女は渡さない~冷徹弁護士の愛の包囲網
「……そう……」
ドアが開いて、先生が出てきた。
「佳穂、ちょっと……蛍も入れ」
ふたりで顔を見合わせて席を立った。怖かった。先生は立ち尽くす私の背中を押して一緒に入った。
先生の部屋に入ると、応接セットのソファにお父様が座っていた。蛍さんはお父様の隣に座り、私は先生の隣に腰かけるよう指示された。
座って気づいた。ピーンと張りつめた空気がお父様の視線から感じられる。蛍さんも何かに気づいたようで黙っている。
「櫂からアメリカで君と契約結婚をしていると聞いてね。いや、こいつが私に黙ってそんなことをするとは、正直本当に驚いた。それに帰国して三日。いつになっても君を家へ連れてこないからね、契約結婚だし、リンダの問題が解決すれば別れるつもりなんだと思っていたんだよ」
「父さん!色々あってうちに連れて行くのが遅くなったのは彼女のせいじゃない。彼女を責めるなよ」
私は立ち上がって頭を下げた。
「ご挨拶が遅れ、本当に申し訳ありませんでした。ご存じの通り、私は父のこともあり結婚は諦めていました。契約結婚だったし、お父様のおっしゃる通り、先生の縁談がなくなれば私も用済みかもしれないと思っていたのでご挨拶を控えさせてもらっていました。私は祖父母にも話していなかったんです」
蛍さんは驚いたのか口を両手で覆っている。
「櫂、お前は結婚や恋愛を遠ざけていただろう。川口君も心配していた。彼女のことが好きなのか?」
「当たり前です。プロポーズしたんですから、契約を提示したのは佳穂をうなずかせるためです。リンダのことがなくても僕はいずれ佳穂を妻に迎えたいと思っていました」
「佳穂さん」