彼女は渡さない~冷徹弁護士の愛の包囲網

 お父様はカバンを持ち上げた。私はお父様のコートを差し出した。お父様はコートに腕を通して席を立って部屋を出た。隣の川口先生の所を覗きに行ったようだった。

「蛍」

 先生は小さい声で蛍さんの耳元で囁いた。

「何、お兄ちゃん?」

「今日はありがとう。お礼と言っては何だが諒介のこと任せておけ。何とかしてやるから素直になれ。あいつもお前と同じで素直じゃないからな」

 私達はびっくりして櫂さんを見た。

「お、お兄ちゃん、何言ってんのよ!」

「任せろ。その代わり母さんのことも頼んだぞ。会わせるのが最後になって機嫌が悪いかもしれない」

 先生はウインクして妹を見た。蛍さんは真っ赤になって顔を覆った。

「もう、お兄ちゃんってば……そのウインク他の人にやるのはもうだめだよ。ママのことは任せて。諒介さんのことは無理しないでいいから、できるだけよろしくね」

 二人は出て行った。部屋には私達二人になった。先生は私の手を握った。

「佳穂。これで堂々と公表できるぞ」

「はい。お父様がすぐに許してくださるとは思いませんでした。それに、お仕事事務所をやめないですみそうなんですね?よかった」

「ああ、僕の日頃の仕事ぶりが評価されたようだ」

「それなら、私も少しは貢献してますか?」

 彼は私を優しく見て頬をつついた。

「そうだな、君に仕事は助けられているから十分功績はあるぞ。それに諒介からもし僕が他の事務所へ移籍するなら、弁護士秘書として君を預けてほしいと言われたんだ。あいつ、すっかり君のとりこだ。渡すもんか」

「妻になったんですから、お仕事離れたとしてもずっと一緒でしょ?」

 彼は私をそっと抱きしめた。

「誰にも渡さない。どんなときもずーっとだ」

 私達はぎゅっと抱きしめ合った。

 
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