彼女は渡さない~冷徹弁護士の愛の包囲網
 先生は授業中だったらしく、あとから電話が来た。

「先生……どうして私に父のことを黙っていたんですか?」

「黒羽君のところで面談の段取りがついたと聞いたところだったからあなたを就職までは守りたかったの。お父さんの仮釈放は本当はあなたが就職してからのはずだったのに予定よりだいぶ早まった」

「でも、あの人たちは一体何なんですか?債務整理はついたはずなのに……」

「あの人達がうろうろしだすのはわかっていたの……想像以上に早かったわね」

「先生……」

「黒羽君には話しておくから、とりあえず面談後は彼の指示に従ってちょうだい。身辺に気を付けて。こちらも出来る限りのことはするから安心してあちらにいきなさい」

「先生、すみません。ありがとうございます」

 黒羽先生との面接の日。恐れていたことが起きた。以前と違う場所へ事務所が移転していたのだ。ここはさっきも通った。同じ場所を何度も歩いているような気がする。()()迷ったのだ。

 私は昔から方向音痴。梨畑やブドウ畑で小さい頃からかくれんぼをすると、ひとりだけぐるぐる回って出られなくなった。都内のビル群はまるで同じに見える。空を見上げてため息をついた。

 でも、そんなことは言っていられない。すでに時間がないし、私はもう一度マップを縮尺を思い切って広範囲に戻してじっと考えた。

「うん。方角も、道も合ってる。それなのに、どうして目当ての事務所がないのかな」

 手にした携帯を上下逆にくるくるしながら画面を見た。

「わかった!もしかしてこれって、逆だから……つまり後ろじゃない?」

 後ろを振り向くと目当ての看板を発見した。道に迷って10分も遅刻してしまった。
< 19 / 141 >

この作品をシェア

pagetop