彼女は渡さない~冷徹弁護士の愛の包囲網
「あ、親父がようやく秘書とふたりになった……今がチャンスだ。行くぞ、水世」

 背中を向けているお父様を見つけた彼は、私の手をサッと握ると人波を泳ぐように歩いていく。

「父さん」

 威厳のあるロマンスグレイの男性がシャンパンワインを手にしたまま振り向いた。しかし、隣の私に目を移すと一瞬目を見開いた。

「ああ、達也。そちらは?」

「父さん。彼女がこの間話していた水世佳穂さんだ」

 野田弁護士事務所の所長である彼のお父様は私に目を向けた。

「ああ、君が水世さんか。初めまして、達也の父です」

「水世です。達也さんとは同級生でよくしてもらっています」

 私は深く頭を下げた。

「父さん、彼女のお陰で僕の今があるんだ。彼女をうちの事務所で雇いたい。先生が助手を必要としなくなるので、彼女は就職先を探しているんだ」
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