彼女は渡さない~冷徹弁護士の愛の包囲網
 私は真剣に頭を下げて彼に言った。彼は私の真剣な様子に驚いたのかすぐにうなずいた。

「ああ、わかった……」

 男性はすごすごと帰って行った。

 私が胸に手を当てて安堵したところで、先生は言った。

「水世、遅かったじゃないか」

「申し訳ありません。移転しているなんて知らなかったんです」

 ぺこりと頭を下げた私を先生は見ながら意地悪な目を輝かせた。

「相変わらずの方向音痴なんだろ。そんなんでうちで働けると思っているのか?」

 すでに目の前の柱時計は二時二十分をすぎている。

「……知っていて面談してくれるんじゃないんですか?」

「少しも成長してないのか?」

 私たちの様子を見て池田さんはため息をついた。

「水世さん、久しぶり。来てくれて嬉しいよ」

「はい、池田さんもお元気そうで何よりです」

「とにかく入って。佐々木さんも会いたがっていたよ。外出中なんだ」
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