彼女は渡さない~冷徹弁護士の愛の包囲網
 事務所に入り驚いた。

 とにかく机の上に書類が散乱している。ファイルがあちこちにある。泥棒に入られたのかと思うほど書類も散乱しているし、机の上もひどい状態の事だった。

「悪いが水世が時間どおりに来なかったから、次の仕事に手を付け始めた。ちなみに、三時半から来客があるので、あと10分で終える。ちょっと茶でも飲みながら待っていてくれ」

 先生はパソコンに向かってすごい速さでタイピングを始めた。相変わらずだ。

「池田さん、これはいったいどういう……」

 あまりの部屋の状態に池田さんへ小さい声で聞いた。

「弁護士秘書がさ、あれから三人もやめてしまってね。ひと月ほど前に最後の人が辞めてしまって、この地獄が始まったのさ」

「まさか……またやめさせるような……」

 池田さんが頷いた。

「そうそう。水世さんは耐え抜いたけど、他の人はね……残念なことに耐えられなかったらしいんだよ」

 先生はとにかく厳しい。だから、あの見た目の惹かれて入ってきた人、特に女性は皆そのギャップにショックが大きいらしく、あっという間に辞めていく。私がいた頃からそうだったのだ。結局私はパラリーガルのインターンだったはずなのに、弁護士秘書の仕事がほとんどだったのはそのせいだ。

 小さな二人掛けのソファとテーブルがある。そのソファには毛布があった。ここで誰かが寝ていたと分かる。テーブルには書類が積んであった。

 池田さんは毛布を畳んで、ここへ座ってというように私に示した。そして、書類をよいしょっと下から抱えて書棚の方へ行った。しばらくすると、横の棚からドサドサっと書類が勢いよく落ちた。
< 24 / 141 >

この作品をシェア

pagetop