彼女は渡さない~冷徹弁護士の愛の包囲網
「あああ……もう……」

 池田が慌ててその書類を拾いはじめた。私も立ち上がって手伝った。

 先生がファイル棚の前の書類を手にして言った。

「池田君。ここの書類はたしか三日前、僕が案件別に綺麗にまとめておいたはずだが……ファイリングして棚に入れるだけの状態にして頼んだよな。どうして全くファイリングされていないんだ?しかも僕が分けておいたときよりもぐちゃぐちゃじゃないか……これじゃ、探すのも一苦労だ」

「すみません。だって僕はパラリーガルの仕事だけで手一杯です。来週、裁判なんですよ!それどころじゃありませんよ」

「池田君。それどころとはなんだ?聞き捨てならん。ファイリングはすべての基礎だ。案件をろくにまとめられない人間にパラリーガルがつとまるはずもない」

「僕が整理整頓苦手なのは、僕の机を普段から見ていてよくご存じですよね。だから、整理整頓は佐々木さんにお願いしてくださいって言ってるじゃないですか。僕がやるより絶対彼女の方がそっち方面は得意なんですから、その方が早いですよ」

「整理整頓できないって自慢してどうする。君を矯正するために頼んでいるんだ。成長してくれ。彼女にはそれ以外の仕事を頼んでいるんだ」

「それ以外の仕事を僕がしますよ。適材適所って知ってます先生?」

「適材適所ね。つまり、君はこの事務所に不向きだといいたいのか。残念だ……企業法務に関する君の知識は大したものだと思っていたのに、整理整頓ができずここでお別れとはな」

「そ、そんな……」

 私はもう黙っていられなかった。立ち上がって先生の前に行って言った。
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