彼女は渡さない~冷徹弁護士の愛の包囲網
「先生、まさか同居しろって言ってますか?」

 先生は真顔で頷いた。

「もちろんだ。あのマンションはそういったセキュリティーに優れたマンションだから選んだんだ。住んでもらうのが一番守りやすい」

 それは父の負債が片付くまでのことなのだろうか。どれほど時間がかかるかわからない。

「そんな……この問題に片が付くまでずっと同居させてもらうっていうことですか?」

「水世の身柄を守りながら、お父さんの借金問題を解決するにはこのセキュリティーに優れたマンションでの同居が一番だ」

「先生、もしかしてまだ彼女さんとかいないんですか?」

 先生は私をにらんだ。だって……インターンで働いていた時から先生は女性を振って、というか、付き合うこともしない人だった。

「普通はそういう相手がいたなら他の女性を同居なんてさせないだろう」

 先生は名刺の裏に自分の家の住所を書くと渡してくれた。そして今日のうちに荷物を作って明日届くように送るようにと言われてしまった。

 話を蒸し返すと忙しいから出ていけと言われて、調べ物を頼まれてさっさと部屋から出されてしまった。

 午後になると、パラリーガルの佐々木さんと再会した。彼女はシングルマザーで中学生の男の子をひとりで育てている。前から気が合う素敵な女性だった。以前、先生は厳しかったけど、佐々木さんに支えられて頑張れた。

「やだ、水世ちゃんじゃない!本当に来たのね?嬉しいわー!」

「お久しぶりです、佐々木さん。私、ずっと会いたかった。佐々木さんと働けるのが何よりうれしいです。これからもどうぞよろしくお願いします」

「聞いたわよ、なんか変なのに狙われてるんですってね。大変だろうけど、何かあったらみんなであなたを守るから変な電話とかでもすぐに言ってね」
< 29 / 141 >

この作品をシェア

pagetop