彼女は渡さない~冷徹弁護士の愛の包囲網
 何を言っているのだろう。先生は話を合わせろと言ったのはそういうことだったのか。とりあえず、話を合わせないと後が怖い。

「は、初めまして……こ、婚約者の水世です。どうぞよろしくお願いします」

「へー、ここだけの話、先生が女性を部屋に上げたところも僕は見たことなかったですけど、突然女性連れでこられて婚約者とは驚きました。さすが黒羽先生。最初に紹介された女性が婚約者とはやりますね」

「当たり前だが他言無用で頼む」

「もちろんです。あとで婚約者さんの身分証明書類をお出しください」

「ああ、わかっている。よろしく頼むよ」

「かしこまりました」

 エレベータールームまで先生は私の背中に手をやり優しくエスコートした。エレベーターは先生の住んでいる階直通だ。

「これがカード。こうやってかざして……」

 教えられたことをメモする。エレベーターが動き出した。

「先生、それよりも、ちょっと待ってください。さっき私のことを婚約者って紹介してましたよね。同居はいいとして、契約結婚の件、私は了承したわけじゃありません」

「最初に言った通り、ここはセキュリティーが厳しい。宅急便や郵便物、来客、付け届けなど、さまざまなことを下の受付では管理しているんだ。契約者本人が許せば、家族や配偶者限定でいくつかの権利を委譲できる。つまり、君は配偶者予定ということで婚約者として申請するのが一番スムーズに君がここで生活できる」

「そんなこと、勝手に決めないでください、まずいですよ!」

「まずいかどうかは僕が決めることだ。君は従ってくれればいい」

「そうはいきません!」

「まあ、落ち着け。部屋で話そう」
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