彼女は渡さない~冷徹弁護士の愛の包囲網
「それはどうかなあ。それを込みで先生はあなたを同居させたんじゃない?出張中にあなたが秘書として部屋で郵便物とか受け取って色々とするべきことがきっとあるはずよ。前に池田君が先生の出張中に郵便物とか取りに行ってたことがあるんだけど、承認が大変だった」

「そんな……」

「最初から婚約者設定なら色々面倒がない。でも嘘はよくないわね。弁護士は嘘ついちゃだめよ」

「そうですよね。変です……」

 私は考えれば考えるほどよくわからなくなった。

「先生がいないとき私泊りに行きたいな。行ったことないんだもん、先生のマンション」

「それはいいかもしれませんね」

 するといつの間にか机をトントンと指でたたく音がする。びっくりして振り向くとそこには私を怖い目で見下ろす先生がいた。

「……水世」

「ひいっ!」

「こっそり人を部屋に連れて行くのは禁止だぞ。言っただろう。あそこは僕がいないときに僕が認証していない人は入れないんだ」

 佐々木さんが横から入ってきた。

「えー?今のうちに認証しておいてください……例えば婚約者の姉とかどうです?」

 佐々木さんはいたずらっ子の様に先生を見た。先生はため息をついた。

「わかりました。佐々木さんのことはいずれ必ず一度部屋に招待します。だから、余計なことはひとことも言わないように。いいですね」

 佐々木さんは先生をじろりと見つめた。

「約束ですよ。そうだ、先生。弁護士なんだから嘘はついたらだめなんです。針千本どころか廃業させられますからね!」

「……」

「頑張ってね、先生」

 佐々木さんは先生にウインクした。先生はくるりと背中を向けていなくなった。

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