彼女は渡さない~冷徹弁護士の愛の包囲網

突然のプロポーズ

 夕方、池田さんが相変わらずパソコンを見て仕事をしている私に声をかけてきた。

「あれ、水世ちゃん帰らないの?」

「あ、はい。ちょっとやることがあって……どうぞお先に……」

「そういえば、池田君。今日は早く帰らないといけないんでしょ?スーパー行くんじゃなかったっけ?」

「あ、そうでしたー、忘れてた!メモの通りに買い物をして帰らないと奥さんに怒られる」

 池田さんが慌てて帰り支度を始め、あっという間に出て行った。佐々木さんは私を見ながらくすっと笑うとお先にと言って帰って行った。

 お客様が帰られて、給湯室でお茶を片付けていた私の所に先生が来てこう言った。

「水世。今日はこのあと特に予定ないな」

「はい」

「これから明日の調書をまとめる。それだけやったら一緒に帰ろう」

 驚いて洗っているコップを落としそうになった。

「一緒に帰る?」

「ああ、少しだけ待っていてくれ」

「ええー!先生、お忙しいのに無理しなくても大丈夫ですよ」

「いいから、待っていなさい。なるべく早く終わらせるから」

「先生、ご心配いただかなくても大丈夫ですよ。私には強い味方がいます」

 私はポケットから小さな丸い玉に可愛い紐を付けた防犯ブザーを取り出した。実は中学時代から常に携帯しているのだ。
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