彼女は渡さない~冷徹弁護士の愛の包囲網
「見てください。可愛いでしょ。これ、防犯ブザーなんです。見た目とは違い結構役に立つんです!事件以降何かあるとこれに助けられてきたんですよ。身近なボディガードなんです。先生がいないときもこれに助けられてきました」

「何かあったんじゃないだろうな?どうして報告しないんだ!」

「買い物中に誰かにつけられてるような気がしたんですけど、でも、結局気のせいだったみたいだから大丈夫です」

「つけられてた?馬鹿!どうして言わないんだ」

「だから、これがあるから大丈夫なんですってば……」

「大丈夫なわけがないだろう。買い物も一人で行くなと言ったのに……いや、僕が悪いんだよな。忙しいのにかこつけてタクシーに乗せていたが寄り道するとは思わなかった。油断すると君はだめだな、いいか、今日からは一緒に帰る。朝も一緒に出るぞ。スケジュールをそうできるように調整してくれ」

「わかりました」

 それからというもの、朝の出勤は、先生の直行などの用事があるとき以外は必ず一緒に出た。先生に用事があるときは、タクシーに無理やり乗せられた。

 帰りはクライアントとの会食や仕事で先生は大抵遅くなる。私が先に帰ることが多かった。マンションの最寄駅の地下から直通通路が繋がっている。便利なのだ。しかも、その通路は警備員が配置されているのだ。本当にすごいマンションなんだと住んでみてよくわかった。

 事務所から駅までを気を付けていれば問題ない。大抵その時間は大勢が歩いている。それに、佐々木さんは定時退社することが多いので、一緒に帰っていた。

 ある日、佐々木さんもいなくて一人で少し遅い時間に帰ることとなった。事務所に施錠して先生にこれから帰りますと連絡した。先生は会食だった。一人で駅へ向かうときはタクシーを使えと言われたが、歩いて10分もかからないところにタクシーなど遣いたくなかった。あれ以降持ち歩いている私の防犯ブザーも役に立つので走って帰りますと言った。

 事務所のシャッターの鍵のかけ方がわからなくて、少し時間がかかって外へ出た。
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