彼女は渡さない~冷徹弁護士の愛の包囲網
「野田君ありがとう。もういいの。あの、先生。野田事務所でお世話になるつもりはありません」

「水世!僕は君が……」

 彼は悔しそうに手を握って下を向いた。

「達也、宗田様がこちらに気づいた。行くぞ。では水世さん、ここで失礼します」

 野田君のお父さんはそう言うと、前からこちらに歩いてくる宗田様とお嬢さんに向かって歩いて行った。

「野田君、行って」

「ごめん。心配しないでいいから……」

「ううん。わかっているから……お父様と喧嘩しないでね」

 彼は私をじいっと見た後、くるりと踵を返してお父様を追いかけて行った。笑顔で宗田様とお嬢さんに挨拶をしている。お父様も自慢げに彼を見つめている。

 彼と付き合ってもいないのに、こんな風に言われる。あのお父様の冷ややかな目を見て、昔を思い出した。父のことで陰口を言われてた頃。もう私にはそういうことを乗り越えられるだけの強さができたはずだったのに、涙がスーッと流れて落ちた。化粧室へ行こうと部屋を出た時だった。

「大丈夫か?」

 ドアを出たところで声をかけられ、振り向くとそこには背の高い切れ長の目で整った顔立ちの男性が立っていた。濃いグレーの細身のスーツがとてもよく似合う。一番見られたくない人に会ってしまった。
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