彼女は渡さない~冷徹弁護士の愛の包囲網
 先生は箸を止めて私を見た。

「れ、恋愛も、それから結婚も、私の父のことを知れば皆逃げていきます。だから先生と結婚なんて絶対ないんです」

「なるほどね……君は前を向いて生きて来たんじゃなかったのか?」

「……え?」

 『誰に何を言われようと君が恥じることはない。常に前を向いて生きていけばいいんだよ』

 昔、公園で私に話してくれた男の人が言った言葉だ。思い出した。まさか、どうして……。

「僕はあのとき中学生の君に伝えたはずだ。忘れてもらったら困る」

「嘘ですよね、あの時の男の人ってまだ若くて学生さんみたいでしたよね?まさか、先生だったの?」

「学生だったよ。先生の研究室にいた。先生の弁護士の仕事のパラリーガルもしていたし、弁護士秘書もしていた。僕はね、あの頃からスーパーマンなのさ」

 何を得意げにしているんだろう。驚いた。

「先生、あの時はありがとうございました。私、あの時言われたことをずっと心に留めて今まで生きてきました」

「そうかな?恋愛できないだの、結婚はできないだの、相変わらずじゃないか」

 私は立ち上がった。

「それはそうですよ。だって、そうやって……幼馴染が私と交際したいと言った時も……彼のお母さんは交際しても、私とは絶対結婚させられないからと大反対でした。今でもそうです」

「そういう人も一部いるのは確かだ。僕も加害者弁護をして勘違いをされている。でも僕だったらそんな理由で君との将来を諦めたりしない」

「先生……」
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