彼女は渡さない~冷徹弁護士の愛の包囲網
「佳穂。君がだめだと思っていることはだめじゃない。僕が証明してやる。佳穂、僕と結婚しよう」

 名前を呼んで先生は私の頬を囲んで目を見て言ってくれた。夢を見ているのかと思うほど嬉しかった。涙が出た。先生は嗚咽する私をそっと胸の中に抱き寄せた。シトラスの香りがした。

 優しく頭を撫でてくれた。

「泣くな。君の涙は僕を昔に引き戻す。君を泣かせないために側へ連れて来たのに、これじゃだめだな……」

 そう言って私の顔を上げておでこにキスをした。

「あ……」

 私はじっと先生の目を見あげた。すると、先生はふっと笑った。

「佳穂はすでに僕の婚約者なんだ。だからこうするべきだな。許してくれるか?」

 そう言って先生は私の顎をとらえて、もうひとつの指で唇をなぞった。

 私は先生の言うことを理解して、そっと目をつぶった。

 すると予想通り、柔らかなキスが降ってきた。

「……ふ、んう……」

「甘いぞ……もう少し……」

 そう言うと、先生は私を抱きかかえて口を割るようにキスをした。

「ん、んう……あ……」

 首筋にキスが移り、先生の手が私の背中をから下がっていく。一度唇を離して私をじっと見つめる。私は先生を潤んだ目で見上げた。

「佳穂、そんな目で見て君は僕にどうしろと言うんだ」
< 51 / 141 >

この作品をシェア

pagetop