彼女は渡さない~冷徹弁護士の愛の包囲網
川口先生はソファへ座ろうとしてジャケットを脱いだ。私はそのジャケットを受け取ってハンガーにかけた。バタンと音がした。
「おい、諒介。朝から何しにうちへきたんだ。昨日の電話で今日来るなんて聞いてないぞ」
低い声がして振り向くとそこには黒羽先生がこちらをにらみながら立っていた。川口先生とは真逆の雰囲気。明るい雰囲気からピリッとしたいつもの空気に代わった。
「櫂。朝からせっかく来た親友に向かって、その冷たさはどうだろうな。弁護士は事務所内で笑顔を絶やさず、お客様の心を和ませるような温かい雰囲気を作らないといけない。お前は身内にもそんななんだろ。だから皆逃げていくんだよ。反省しろと言ってるだろ」
「余計なお世話だ。お前のように緩み切ったモラルは誰のためにもならん。法を守るものは自分の私生活もきちんとしろ」
私はあっけに取られて二人の顔を交互に見た。何なのこのふたり……。喧嘩していても妙に息の合った掛け合いなんですけど……。
「先生達、いい加減にしてくださいよ。二人の本性を知らない彼女が驚いてますよ」
黒羽先生と川口先生は瞬時に私を振り返った。私は二人の視線を受けて戸惑った。
「……あ、あの……」
「それで何用だ?」
私は川口先生に冷たい麦茶を出した。川口先生はソファに座ると麦茶を飲んだ。
「お前のところに新しい子が入ったという噂を耳にしたんだ。ほら、またいなくなるかもしれないから、その前に顔を見ておこうと思ってね。ちょっと寄り道してみた。そしたら想像以上に可愛い子だったから来て良かった」
「お前……いなくなる前って、その言い方やめろ。よそでそんなこと言ったら許さんぞ。うちの評判が悪くなる」
「何を今さら言ってんだ。櫂は今日午前中裁判所だって聞いてたから、隠れて見に来たのにな。どうしてまだいるんだよ?」
「そっちはこれから行くんだ!」
「あ、そう。それじゃ、一緒に出ようか。待っていてやるから準備しろよ。そうだ水世さん、辞めたくなったらすぐに電話して」