彼女は渡さない~冷徹弁護士の愛の包囲網

 彼はそう言うと、私の手に名刺を握らせた。

「え?あの……」

「いいからお守りとして持っていてね。僕は君の味方だよ。さっきの話の続きは櫂に聞いておくよ」

「え?」

「水世、そんなお守りは効果もないし、無駄だから捨てなさい。それと、裁判所の書類は準備できてるか?」

「はい、出来ております」

 私は急いで書類を袋に入れると、先生に渡した。先生は上着を取りに部屋へ戻った。川口先生がソファで佐々木さんに声をかけた。

「佐々木さん、息子さんは元気?」

「はい、お陰様で元気です。息子は私を救ってくれた川口先生をいまだに尊敬しているんですから、青少年の見本になる生活をお願いしますね」

「もちろんだよ。でも最近忙しすぎて彼女を探す時間も取れないんだ」

「はあ……相変わらずじゃないですか、川口先生……」

 佐々木さんがうなだれた。先生が顔を上げた。

「池田君はどうした?」

「まだ戻ってません」

「何をやってるんだ、全く……。先に行く。裁判所で待っていると連絡しておいてくれ」

「わかりました」

「よし、じゃあ少し早いが川口と一緒に出ますので、あとを頼みます」
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