彼女は渡さない~冷徹弁護士の愛の包囲網
「はい。お気をつけて」
「じゃあね、水世さん。またね」
ひらひらと手を振って、愛嬌を振りまきながら川口先生は消えた。その後ろを黒羽先生が歩いていく。ふたりは並んで通りを歩いて行った。
「水世ちゃん。川口先生普段はあんなゆるーい感じなんだけどね。お仕事となると豹変して、うちの先生も驚くほどの敏腕ぶりよ。でも普段はあんな感じだからね。女の子に勘違いされて大変なのよ。うちの先生と違った意味でね」
「川口先生って結婚されてないんですか?モテそうですし、黒羽先生と違って女性が好きそうでしたよね」
「実はね、結婚してたのよ」
「え?」
「ここだけの話にしてね。奥様と離婚しているの。奥様が離婚を切り出して出て行ってしまったそうなのよ」
「えー!」
「先生のところは幼馴染で結婚したんですって」
「川口先生って気が回りそうですけどね」
「忙しすぎたみたいよ。センチュリーって相当忙しいらしいわ」
「そうなんですか」
「私の離婚案件も川口先生が担当でね。経験者だしスムーズだったわ。いい先生だから先生のところで働こうかと思ったら空きがなくて、親友の黒羽先生のところを紹介されてきたってわけ」
「そういうことだったんですね。でも黒羽先生も依頼者が女性の場合大抵……それに大きなクライアントからの女性の紹介というか縁談が多くて驚きました」