彼女は渡さない~冷徹弁護士の愛の包囲網
本当に驚く。スケジュール管理をするようになってその時間も捻出している。
「そうでしょう。まあ、あのルックスと能力だもの。でも、一度だけお相手の顔を立てて食事かお茶をするとそれっきりなのよね。必ずお断りしてしまう。それでおしまい。まるで相手は関係なくルーティーンのように対応してるのよね。ま、今度は水世ちゃんという婚約者を理由にできそうね」
「それは、でも……」
「それで、同居生活はどうなのよ?」
興味津々の目が私を射抜いた。私が黙っていたら佐々木さんがふっと笑った。
「あらら、カマをかけただけだったのに、真っ赤になっちゃった。そうか、そうか。先生もようやく悪魔から人の子になったというわけね。頼むわよ、水世ちゃん。悪魔を優しい人間にしてあげてね」
悪魔を人間にって……佐々木さんも結構口が悪い。
さすがにプロポーズの話はできなかった。先生との結婚というのは無理な気がする。先生のご家族が絶対反対すると思うのだ。
「水世ちゃん」
「はい」
「あなた男性とお付き合いしたことないんでしょ?」
「もちろんです。私の家のことを知れば皆逃げていきます」
「そんなことないでしょ。もしかして好きな人がいても諦めてるの?」
「学生時代から好きにならないよう最初から心にブレーキをかけているんです。それが一番後でつらくならないんです」
「もう、やだ、水世ちゃんたら……泣かせないでよ」
佐々木さんは私の肩を持ってうなだれた。
「全く気づいてないようだから言っておくけど、先生はあなたをだいぶ前から意識してる。それだけは間違いないから信じてあげてよ。気持ちがないのに何か言うような人じゃない。それはずっと見てきた私が保証します」
「そんな……」
「少しは気づいてたでしょ?何かと言えばあなたのことを心配して大切にしてる。水世ちゃんは先生のことどう思っているの?」
「先生が優しすぎて、どうしていいかわからないときがあるんです」
「素直に甘えればいいのよ」
「……」
「素直に恋できないのね。ブレーキか。これは先生も大変だ。水世ちゃんの固い心のガードを崩すところから始めないといけないわね」
私は何も言えなかった。