彼女は渡さない~冷徹弁護士の愛の包囲網

櫂side

 彼女と初めて会ったのは、三峰先生について庶務やパラリーガルとして働き始めた頃だった。

 先生の友人の知り合いが水世のお母さんだった。彼女は夫が自分の病気の治療費のために会社のお金に手を付けてしまったことを説明した。そして、夫の弁護をしてもらえないかと三峰先生へ連絡をしてきた。

 話を詳しく聞くために、水世の家に先生と一緒に行った。

「中学一年生の娘と3人家族なんですが、娘は学校へ行けなくなってしまいました」

 ソファの隅で小さくなっている制服を着た女の子がいた。

「佳穂……大丈夫?」

「……はい」

 三峰先生が僕を見て小さな声で言った。

「黒羽君。彼女を任せるわ。これからお母さんとする話は彼女が聞くのはまだ辛いかもしれない。近くでお茶してきていいわよ」

 僕は頷いて、俯く彼女を連れ出した。

 玄関を出た時から、近所の人がコソコソとこちらを見ながら何か話している。彼女はそれに気づくとぴくりとして、下を向いた。僕は近所の人をジイっと見つめたら向こうから目を逸らした。
 
 可哀想に加害者家族というだけでまるで同じ犯罪者扱いだ。

 まだ中学一年生。学校に行かれないというのは、きっと色々言われたんだろう。

 目を合わせられないのは、怯えているからだ。人目が怖いんだなと思った。ひとけのないところがいいかと、近くにある公園へ連れて行った。

 平日の昼過ぎの公園は、ちょうど人がいなかった。

 ベンチで座っている彼女にお茶のペットボトルを渡して話しかけた。相変わらず下を向いている。
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