彼女は渡さない~冷徹弁護士の愛の包囲網
「君とお父さんのやったこととは全くの無関係だ」

 彼女はピクリとして、顔を上げた。でも前を見たままで、横に座っている僕を見ない。

「大人でも間違っている人は大勢いる。さっきの近所の人達の振る舞いも間違っている。大人の仲間として謝る。ごめんな」

 彼女は大きく目を見開きこちらを見た。潤んだ目から一筋涙が流れ落ちた。すると、どんどん涙が流れて顔を覆い嗚咽した。

 僕はハンカチを渡すと彼女の頭に手をのせた。

「君はお父さんとは別な人間だ。君が間違えたことを何もしていないのなら前を向いて堂々と生きていけばいい」

「……」

「理由もなく踏まれたら、いつかその人を踏み返すために顔を上げてごらん。理不尽な事が続いたら僕らに相談してくれたらいい。いつでも君を助けるよ」

「うぅ、ありがとうございます……」

「大変だったね。でも君は何も悪くない。たとえ被害者家族に何を言われても君が悪い訳じゃないんだ」

「でも……お父さんが悪いんだから、家族の私は謝らないといけないですよね……」

「家族として謝りたい気持ちはわかる。でも、謝る事で君まであたかも罪を犯した人だと勘違いさせる可能性もある。必要以上に謝ることはない。被害者家族に何か言われても返事は僕らを必ず仲介にするんだ。いいね」

「はい……」

「学校もつらかったら休むか、転校するといい。高校から周りと離れた学校に行くのも手だよ」

「そう、ですね」

「誰に何を言われようと君が恥じることはない。常に前を向いて生きていけばいいんだよ」

 彼女は驚いたように僕を仰ぎ見ていた。そしてうなずいた。
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