彼女は渡さない~冷徹弁護士の愛の包囲網

先生の本気

 先生は今日も部屋から出てこない。アメリカ出張前で仕事が佳境に入っている。忙しいと平気で昼を抜く。ここ最近ずっとそうなのだ。

 私は意を決して給湯室で持ってきたものを温めて準備をすると先生の部屋をノックした。最初は返事がなかった。寝ているわけはない。鼻息荒く、もう一度強めにノックをする。するとけだるげな声がした。

 「水世、なんだ」

 「先生お昼ですよ」

 「そんなのはわかっている。君は昼休みにしていい」

 「そういうことじゃなくて……失礼します」

 思い切ってドアを開けると、パソコンに目をやっていてこちらを見ることもない。やはり今日も食べずに仕事をする気に違いない。

 面やつれしてきている。見慣れている私でさえ怖いと思う。

「食いしん坊の水世が食事を後回しにして聞きたいような何か大切な話でもあるのか?」

 こちらを見ずにキーボードを打ちながら画面を見て話している。でも負けない。

「顔も見ないでノックしたのがどうして私だとおわかりになるんですか?」

「水世は足音とノックに特徴がある。しかもその時の機嫌もわかる。今は少しいらついている。非常にわかりやすい」

 あっけに取られて先生を見た。いつもの意地悪な笑顔を浮かべてちろりと私を挑戦的な瞳で見つめる。

「じゃあ、私が何を考えているかもおわかりですよね」

「聞きたくないな。今、とても忙しい……」

「先生。どんなに忙しくてもきちんとご飯は食べてください。私、先生がお昼食べてないと気になって食べづらいんです。夕べも食べてないんじゃないですか?顔色が悪くて幽霊みたいです。余計怖く見えます」
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