彼女は渡さない~冷徹弁護士の愛の包囲網
「幽霊だと?失礼だな」

「先生、鏡を見てください。お顔が真っ白ですよ」

 先生は幽霊と言われて少し気になったんだろう。立ち上がってロッカーの扉を開けて鏡を見ている間に、ささっとお盆を先生の机で書類のない場所に置いてしまう。

 そこにはお皿とスープがのっている。睨まれたが、先生の右手の前に無理やり置いた。

 先生は満腹になると頭がぼやけるというのが持論で、常に腹八分目。お酒もあまり飲まないし、忙しいと平気で一日食べないこともある。

 運動もしていないのにスレンダーなのはそれもあるかもしれない。

 彼のスケジュールを把握している私は、次の打ち合わせまで45分の空き時間があることを把握していた。今日は好き嫌いの激しい先生の為に、先生がコンビニでよく買う鮭と梅おかかのおにぎりを自分で作って持ってきた。鮭は夕べ焼いたものだ。たくさん入れてあげた。

 先生はパソコンを打ち終わると、青白い顔を上げて私を見た。いつもなら、いらないと突っ返されて終わる。

 ところが決死の覚悟で仁王立ちしている私を見て、彼は珍しくため息をついた。そして先ほど私がファイルをした、これからある打ち合わせの書類を見ながら、鮭おにぎりへ手を伸ばし一口食べた。

 私はガッツポーズ。彼は驚いた顔をしておにぎりを見つめている。

「……水世、もしかしてこれ手作り?」

「はい。美味しいですか?」

「……悪くはない」

 でも絶対美味しかったんだろう。だってすぐに黙ってもくもくと食べだした。

「もしかして昨日の夜キッチンでごそごそしていたのはこれを作っていたのか?」
< 68 / 141 >

この作品をシェア

pagetop