彼女は渡さない~冷徹弁護士の愛の包囲網

「もう、いいです!今日は忙しくなりますから、とにかく仕事をしましょう。先生、時間ですよ」

 先生は外出予定だった。

「そうだな。とにかく二人はすぐにこれを書いてくれ。今日出しに行く。水世のためだ」

 先生は、くるりと背中を向けて出て行った。

「ちょっと、水世ちゃん、どういうことなのよ!」

「そうだよ、水世さん。先生はさあ、そういう方面はちょっとポンコツだからね。わかってるでしょう?」

 池田さんが眼鏡を上げながら言った。うん、確かにそれは否定しない。

「私を自分の戸籍に入れて守ると言ってくれました。アメリカに行くまでに全て解決したいと……あと、先生のアメリカにいる幼馴染さんとの縁談を私との結婚で破棄したいらしいんです。だからアメリカから戻るまでの一応契約結婚ということになりました」

「そういう意味の契約結婚だったのね……説明がなさすぎる、いつものことだけどね」

「そういうことか。ま、色々理由を付けてるけど所詮先生は水世さんを独り占めしたいだけだと思うよ。最近先生は穏やかになったもんね、佐々木さん」

「そうね。悪魔の黒王子は天使の黒王子になりつつあったね。もしかして、先生から好きだって言われてないんでしょ?」

 私はびっくりして佐々木さんを見た。池田さんがやっぱりねと言った。

「とにかくさあ、先生は色恋の方面は本当にポンコツなんだよ。顔はいいのに、どうしてだか真面目に恋愛をしたがらない。だから恋心を表現するのが怖いんだ。色んな理由をつけて交際もせずプロポーズしちゃうんだよ。好きだって言えばいいのに、面倒くさい人だな、本当に……はあ……」

「まあ、二人の結婚には賛成」

 二人は迷うことなく順番にさっさと婚姻届へ署名してしまった。その日の夜、婚姻届は提出された。
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