彼女は渡さない~冷徹弁護士の愛の包囲網
「普通か。でもそういう普通のことを出来ない人が今までの人は多かった。君の仕事はひとつひとつがとても丁寧だ。たくさんのことを適当にこなせばいいというものではない。わからないことを勝手に進めないで、確認してからきちんと進めてくれるのでそれも助かっている」
「ありがとうございます」
「判例調査もとてもよく出来ていたし、君の仕事への姿勢はインターンの時からとても評価できると思っていた」
「本当ですか?先生が今頃褒めて下さるなんてなんか嘘みたい。明日は雨ですよ、きっと」
「こうやって褒めているんだから、佐々木さんに全く褒められていないとか言わないように……」
佐々木さんに以前、先生がいつも無表情なのでこちらは先生の顔色から機嫌が読めず、これでいいのだろうかと思いながら仕事を進めていると話したことがあった。褒められたことがないから自信がないと言ったら笑われた。
「だって本当に直接褒めてもらったのは初めてです。嬉しい……」
手を合わせてにこにこしていたら、先生は座っている私の後ろから両肩をつかんだ。私はびっくりして背中越しに先生を見た。先生は腕をぎゅっと絡めて私を抱きしめた。
「初めてなんてことはないだろう。最初にファイリングなどの整頓もよくできていると褒めた気がした」
「誰に言ったんです?直接褒めて下さったことなんてないです」
「ついでに、僕の妻としても褒めることがふたつ。今朝作っておいてくれた朝食のサンドイッチは美味しかった。いつも家の郵便物を綺麗に分けてリビングに置いてくれていて帰るとすぐに把握できる。とても助かっている」
先生は今朝直行だと知っていたので、サンドイッチは夕べのうちに準備しておいておいた。今朝は食べてくれていて嬉しかった。
「本当ですか?サンドイッチがお口に合ったなら良かったです。先生の嫌いな人参とレタスも抜いて、卵サンドに力を入れました」
先生は私の鼻の頭を軽くつついた。私はびっくりして鼻を抑えた。にやにやして私を見ている。
「少し褒めただけでそんなにはしゃいでいるようだと天狗になりそうで心配だ。ここが伸びてくるんじゃないかな?」