彼女は渡さない~冷徹弁護士の愛の包囲網
「そんなことありません」
「冗談だよ、佳穂……」
先生は私の顎を捉えてそのままキスをした。職場でキスをしたのは初めてだ。スイッチが入ったのか、キスが止まらない。先生は前に回ってきて私に覆いかぶさるようなキスをした。
先生に電話が入った。二人で一緒に受話器を取ろうとしてしまい、先につかんだ私の手の上に先生が手を乗せた。大きな温かい手に包まれてドキドキした。ふたりでパッと手を放してしまった。顔を見合わせ、私が譲ると先生が電話に出た。まだ、心臓がばくばくする。
「はい、弁護士の黒羽です。ああ、お世話になっております。ええ……はい……」
私は逃げるように先生の部屋を出た。赤くなった頬を抑えた。
* * *
とうとう先生が出張に出る前日となった。
「皆、明日から僕は出張になるが、後のことはよろしく頼む」
「了解です」
「新妻を諒介先生に預けてしまって大丈夫なんですか?」
いたずらっ子のように佐々木さんが目を輝かせて先生に聞いた。
「君たちがよく見張っていてくれ」
「一緒にいないから見張れません」
「その通りです」
佐々木さんと池田さんは頷いて笑っている。