彼女は渡さない~冷徹弁護士の愛の包囲網
「おかしいな。どうしてまたあいつら来たんだ?何かあったのかもしれないな。水世ちゃん、一人で外出はしばらく控えて。必ずタクシーを使いなさい。いいね」
「はい、すみません。ご迷惑おかけします」
「いやいや、君を守ると櫂と約束したからね」
その日の夜のことだった。お爺ちゃんから思いもよらぬ話があった。びっくりした私は急いで田舎に戻った。
ちょうど部屋の窓から梨の畑が見えた。白い花が咲いている。
「おじいちゃん、どうしてなの?!畑を全部売るつもりだって……」
私は祖父の顔を見てかみついた。祖父はため息をついた。祖母は近所の友人と温泉旅行に出かけてる留守だった。それを見計らって私を呼んだんだとわかった。
「佳穂、お前には黙っていたが四年前に畑の装備を総入れ替えしたときの借金がまだ半分近く残っている。返済が先月滞って、先週変な奴らに囲まれてな。お前のところにも行くと脅された。だから、畑を売ることにした。それできれいさっぱり借金はなくなるし、近所のブドウ畑でわしは雇ってもらえば食べていくくらいはできる。それが一番だ」
そういうこと……。この間マンションに来ていた借金取りはお爺ちゃんの借金だったのね。私はあの借金がいくらなのか知らなかったが、保証人になったことは記憶していた。畑は受け継ぐつもりだったからだ。
「私がいずれこの畑を受け継ぐって前から言ってたじゃない」
「弁護士事務所に勤めているお前が、どうしてブドウ畑を継ぐ?言っていることとやっていることが違うじゃろ」
「人を雇って栽培したっていいじゃない。それに今後のおじいちゃんの暮らしくらい、私がなんとかします」
「佳穂。身の丈にあった生活をしなさい。婆さんの入院や通院費用もほとんどお前が払っていただろう。これ以上はいい。わしらのことも畑のこともいいから、自分の幸せをつかんでおくれ。お前が幸せになるのを見届けないうちは死んでも死に切れん」
また始まった。最近はそればかりだ。