彼女は渡さない~冷徹弁護士の愛の包囲網
「ようやく黒羽先生のお陰で佳穂の父親の件が片付いたのに、わしの借金でお前に迷惑をかけるなんて死んだ方がましじゃ」
「やめてよ、縁起でもない。それでその借金ってどのくらい残っているの?私も払うから相談してほしかった」
「お前は関与するな。わしがこのまま借金背負ったまま死んだら、またお前に迷惑かけるから畑を売ると決めたんじゃ。借金を背負った娘が弁護士事務所で働けるわけがなかろう。馬鹿も休み休み言え」
「そんなこと言わないでよ!畑はお爺ちゃんの人生じゃない。私はこの畑で育ててもらったんだよ」
「ありがとう、佳穂。もういいんだ。それよりわしには望みがある」
「なに?」
「わしの望みはブドウ畑を継いでもらうことじゃない」
「……」
嫌な予感がしてきた。
「わしの目が黒いうちに、お前が結婚する姿を見たい。ついでに言うなら子供を産むのを見たいんじゃ。ひ孫をこの手に抱きたい。本当ならもう佑君と結婚してそうなってもよかったはずなのに、お前が……」
「あー、もう。わかったから。ね、わかった……」
黒羽先生とは実は契約結婚をしていることを話していなかった。先生の都合でアメリカから戻るまで同居しているとしか説明していなかったのだ。契約結婚だし、説明すると面倒だから黙っていた。それに、いずれ別れるときがくると私は確信していたのだ。
「わかっとらん。わしの夢じゃ。婆さんとも意見は一致している。子供を先に作ってしまうのも手だぞ。なんとか結婚でもいいぞ」
「お爺ちゃん、実は……話していないことがあるの」
「何の話じゃ?それは後で聞く。畑のことだがな、佑君に話したら彼が出来るだけ買い取ると言ってきている」
「買い取る?絶対佑は無理してる。佑のところだって同じシステム入れたんだから借金あるんでしょ」