彼女は渡さない~冷徹弁護士の愛の包囲網

「そうだな。あのふたりで今のところは十分だ。それよりお前がやっていたような仕事をやれる人材がいない。弁護士秘書としてどうだ?ただし、いくらお前でも一応面接はするからな。その気があるなら連絡してこい」

 黒羽先生は背中を向けて先生のいる会場に戻っていった。

 * * *

 勤めていた会社の会計課長だった父が、社内の横領事件に巻き込まれて収監された中学時代。私の生活は一変した。

 マスコミが来て、近所の人がそのことに気づいて白い目で見られるようになった。そして母は心を病んだ。私は学校で悪人の娘呼ばわりされていじめの標的になった。母は耐え切れなくなり、実家へ戻った。そこでは祖父母が梨やブドウを育てる農家をやっていた。

 田舎へ帰っても同じだった。どうして帰ってきたのか知りたがる人たちや、より狭いテリトリーの中であっという間に噂が広がった。母は田舎でも追い詰められ、周りの中傷に耐え切れずどんどん元気がなくなった。事件から五年後。私を残して病気であっという間にこの世を去った。

 父の弁護は母の知人の紹介で三峰礼子先生に依頼していた。三峰先生は母の死後私のことをとても心配してくれた。生活や進路を含めて色々なことの相談に乗ってもらい、先生に憧れて先生のいる大学に進んだのだ。

 加害者家族だったことで大変な目にあってきた。友達どころか、恋愛もまともにできず、負い目を背負って生きて来た。いつか私のような状況の子供がいたら、その子の心に寄り添いたい。そんな風に思って法律を学んでいた私に、三峰先生がインターンとして紹介してくれたのが黒羽先生だった。
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