彼女は渡さない~冷徹弁護士の愛の包囲網

 佑は怒り出した。言わなければよかったと後悔したときには遅かった。

「あの先生最低だな!佳穂、すぐにそんな契約破棄してこっちへ戻って来いよ。どうしてもっと早く相談しないんだ」

「だから、お互い様なの。とにかく、先生がアメリカ出張から戻ってくるまでが契約結婚の期限みたいなものだったから、もうすぐなのよ。でもおとといまた借金取りが来たの。先生のマンションはセキュリティーがいいから、お爺ちゃんの問題が解決するまではお世話になるつもりよ」

「借金取りが来た?!大丈夫なのか?」

「うん。先生の親友の弁護士に助けてもらったから大丈夫。それに、先生はもう明日帰ってくるの」

「それなら急いで畑を買い取って爺さんの借金をきれいさっぱりなくそう。そして先生と別れてすぐに戻って来い。佳穂は僕の妻になるんだからな」

「佑!あなたのお母さんは私との結婚は絶対許さないから無理よ」

 佑のお母さんに会うたび、父のことを暗に口にして嫌みを言われている。佑は若くて有望だ。この地域の若い女の子達には人気者。結婚相手はたくさんいる。佑のお母さんは早く結婚させたいと言っていた。

「佳穂に関係のないことでいつまでも固執する母さんこそおかしい。すでに解決した問題だし、必ず説得する。畑を買うという覚悟を見せたら何も言えないだろ」

「お願いだから、畑を買うのは待って。私がお金を借りてでも先に借金を返済する。佑は何もしないで。そうじゃないと余計に佑のお母さんは怒るわ」

「佳穂。爺さんは歳だぞ。畑はそろそろ誰かに手伝ってもらうか、売るか考えないとだめなんだ」

「わかってる、わかってるよ……」

 私が両手で顔を覆ったのを見て、佑は話を変えた。

「佳穂、これ誕生日プレゼントだ」
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