彼女は渡さない~冷徹弁護士の愛の包囲網
「え、そうなの?聞いてないよね、池田君。一日近く早い便になったんだね」
「でも、出社は明日午後からだろ?先生、今日はこっちには顔を見せないつもりなんだよ。だから連絡なかったんじゃないかな」
「そうでしょうか。でも、万が一こっちに来たらまずいんですよ」
後ろを振り向くと先生の机の上に私が積んでいる書類が見えた。ファイリングがまだでそのままになっている。先生の机は広くておいておくのにとてもいい。私は隣の席だし、何しろひと月いなかったからすっかり物置にしていたのだ。
「ま、確かに……この状況がばれたらまずいかもしれないわね」
「先生の部屋の方は綺麗じゃないか。そっちにいてもらえばいいんだよ」
池田さんが笑いながら言う。
「そんなこと先生が了承するわけありません。池田さん、ここひと月は川口先生についていたから、すっかり鬼の黒羽先生のことを忘れたんじゃありませんか?」
「そう言われれば、そうかもしれない」
すると、後ろから川口先生が顔を見せた。
「あれ、水世ちゃん。今日は午後に向こうから戻るって言ってたよね」
「あ、川口先生。おはようございます。この間はありがとうございました」
「川口先生、黒羽先生が今日の夕方の便で戻るって知ってました?」
佐々木さんがボブヘアを揺らしながら聞いた。
「え?聞いてないけど……明日じゃなかったの?」
「そうらしいですよ、彼女の所にメールがあったそうです」