彼女は渡さない~冷徹弁護士の愛の包囲網

先生の帰国

 私はあれから先生の机を片付けると家に戻り、服を着替えた。いいレストランなので、変な格好では行くことができない。私にしては珍しくきちんとしたつもりだ。その後、川口先生が迎えに来てくれたので、約束のレストランへ行った。

 明日は私の誕生日と知った川口先生は、明日からご自身が出張なのでお祝いできないと言って、わざわざ今日お祝いしようかと計画してくれていた。

「水世ちゃん。今月はお世話になったね。そして明日はお誕生日だよね。少し早いけどおめでとう」

「ありがとうございます。先生こそ明日から出張で準備もあってお忙しいのに、わざわざこんな素敵なところを予約してくださってありがとうございます」

 私の好きな銘柄の白ワインで乾杯した。優しい笑顔。穏やかな性格。弁護士というと、穏やかな下に鋭さを隠した人が多いが、先生はそのままだ。

「君が憧れているレストランだと前に聞いていたからね。予約が取れてよかったよ」

 川口先生は優しい。私が一度言ったことをきちんと覚えていてこうやって予約までしてくれた。お皿が運ばれてきた。目にも美しい前菜だ。私は早速食べ始めた。

「盛り付けも、お味も最高です」

「喜んでもらえたようでよかった。あのさ、水世ちゃん」

「はい」

「君にほとんどの判例調査など任せて、ここひと月は本当に楽だった。さすがに黒羽の下で鍛えられているだけあるね。どうして君は黒羽の下になっちゃったんだろう。最初から君を独占したかった」

「ありがとうございます。先生も私がやりやすいように優しく接してくださるので助かります」

「あいつと僕は違うからね……」

「先生……」

 黒羽先生は川口先生と同窓で親友。でも性格は真逆。
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