彼女は渡さない~冷徹弁護士の愛の包囲網
 黒羽先生は今日の夜の便で帰国すると言っていたが、朝にメールが来たっきり、あれから何の音沙汰もない。やはり予定通り明日の午後から出社してくるんだろう。とりあえず、席は綺麗になった。安心だ。

「あいつはとにかくスタッフに厳しいだろう。クライアントにも正論を言いすぎだ。確かに言ってることに間違いはないが、敵も作りやすい」

「それはそうですが……」

 確かにそうかもしれないが、黒羽先生はクライアントの為を思って注意を促している。弁護士に依頼するクライアントの理由は様々だが、問題が起きる背景をきちんと把握しないと同じことを数年後にまた起こして相談してくる人がいるのだ。

 私からみると、誰よりもクライアントに心を砕いているように見えた。川口先生は余計なことを話すとクライアントが減るぞと彼に言っていたが、私は黒羽先生のそういった目には見えない優しさが好きだ。

 とはいえ、スタッフにとても厳しいのは事実。

「ま、あいつは今回海外で派手に目立ちすぎたから、帰国しても事務所を存続できるか微妙だぞ。あっちのボスがあいつを離したがらないと聞いている」

「そうなんですか?」

「フォーブズで名前が紹介されていたからね。もしかすると他からもスカウトが結構来ていると思う」

「そんな……」

「水世ちゃん。あいつとの契約結婚を続行するとしても、あいつの仕事場が変わるならついていけないかもしれないだろ。そうしたら僕の所へおいでよ。考えておいてね」

 デザートにコーヒーが出た。

「それとこの間あいつらに囲まれた話は一応櫂にはしてあるから。お爺さんの借金の件は櫂に話してきちんとしたほうがいい。甘く見ると痛い目に合う。今回はお父さんの時とは違うからね」

「わかりました」
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