彼女は渡さない~冷徹弁護士の愛の包囲網

「戻ると言っておいたはずだが……」

「すみません、先生の到着時間は知らなかったので、今日はちょっと約束があって外にいます。あの、事務所も、先生の部屋もいつ戻られてもいいようにきちんとしておきました」

「マンションに入れない。鍵がないからだ」

「え?」

「あっちで盗難に遭ったと言わなかったか」

「そういえば……でもこっちの鍵も一緒に失くしたんですか?」

「同じカバンに入っていたからな。だから、君に合鍵をもらいたくて先に帰ると連絡しておいたんだぞ。今、マンションの下にいる」

 私はため息をついた。川口先生の言う通りだ。ひと言足りない。いつもそうなのだ。

「どうした?櫂からか?」

「そうです。すみません、急いで帰らないといけないです。先生、家の鍵も盗難にあったとき失くしたらしくてマンションの前にいるらしいんです」

「はあ、電話貸して」

 そう言うと、川口先生は私の携帯を奪い取った。

「おい、櫂」

「ん?諒介……は?どういうことだ。彼女と一緒にいるのか」

「そうだよ。彼女と有名イタリアンでプレハッピーバースデイのディナー中だ。お前は時間も言わず、勝手に帰ってきて邪魔する権利はない。その辺のホテルにでも入ってろ」

「お前……」
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