先生の金魚
「時枝は変わってるなー」

「めぐり」

「ん?」

「廻、です」

「あー…でもなぁ。同じ名字、居ないしなぁ」

「時枝、なんて滅多に居ないよ。そしたら私は一生、名前では呼んでもらえませんか?」

「…顔のいい女は苦手だ」

「…え?」

「自分がなに言っても男が喜ぶと思ってんだろ?」

茶化すみたいに、
本音が分からない表情でせんせーが笑った。

「メグも。顔のいい男は苦手です。自分なら絶対にメグと釣り合うと思って下心を隠さないから」

「ふはっ……お前、面白いな」

「仕返しです」

「仕返し?」

「内緒です」

「内緒ばっか」

「せんせー」

「うん?」

「せんせーは、何歳ですか?」

「二十八だけど、なんで?」

「二十八…」

「あぁ。四月でな。四月三日。つい最近な」

一回りも上。
どうせなら二十七歳だったら良かったのに。
そしたらせめて、十二歳差で
干支がお揃いだったのに。

「やっぱ子どもですよね」

「子ども?」

「こっちの話です。せんせー、また明日」

「あ…あぁ。気をつけて帰れよ」

「はい。また、明日」

ペコって頭を下げて
教室を出た。

うれしいと悲しいがメグの中をグルグルしていた。

でも、せんせーのお誕生日を知れたことが
とびきりうれしかった。

もう終わってしまっていたけれど。
だってきっと、
このクラスの中で、
メグが一番に知れたせんせーのことだったから。
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