先生の金魚
職員室を出て、教材室のピッタリと閉まったドアをノックした。

中からくぐもったような声で
「はい?」って返事をするせんせーの声が聴こえた。

突然尋ねて来られたことを不思議そうにしている表情が浮かんだ。

そっとドアをスライドさせて中を覗いたら
せんせーはいくつかの映像作品を持って、
やっぱり不思議そうにこっちを見ていた。

「なんだ、時枝か」

「なんだってなんですか」

「掃除は?」

「うちの班はお休み週です」

「あー、六班か」

「二班じゃなくて?よく分かりましたね」

「席順だからな」

クラスでの班は席順で決められている。
席順で割られることも
掃除当番表も今朝にはもう決められていて、
席替えをした今日、自動で自分がどの班になるか決定した。

一番後ろの席の私は、
自分がどの班になるか数えなくてもすぐに理解した。

「暇だから来ちゃいました」

「わざわざここに?」

そんな質問するなんてずるい。
なんて答えたら正解なの?
せんせーを探して来たって言えば
喜んでくれるの?

「職員室…行ったことなかったから覗いてみたら、せんせーがここに居るって教えてくれて…」

「ふーん?」

せんせーは持っていた映像作品のパッケージを裏返したりしながら眺めている。
二、三本を見比べて、思案しているみたいだった。
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