先生の金魚
ゆらゆらと気持ちよさそうに揺れる、
金魚の赤。

プリズムみたいにキラキラと光る水。
蒸した室内。

冷えていく指先。

せんせーと出逢った季節は、
真っ赤に熟していない。

うすい桃色だった。

風がまだ少し冷たかった。

もう触れられない季節の温度も匂いも
はっきりと思い出せるなんて。

どれだけせんせーとの時間を大切にしてきたかっていう証拠だ。

どんなに小さな思い出だって
ひとつも取りこぼしたくなかった。

全部憶えていたい。
もっとせんせーのことが知りたい。

できればね、
メグはあなたの細胞になってしまいたかった。
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