先生の金魚
お母さんに挨拶をして、
サヨちゃんに手を振って玄関を出る。

玄関前の路地。
見上げたらサヨちゃんの部屋の窓が見える。

開けたままの窓。
白いカーテンが揺れているのも見える。

足元には
赤い点。

乾いた金魚はちゃんと、
死んでいた。

摘み上げて、
鞄の中から出したハンカチに包んだ。

駅に着いたら
電車はすぐにやってきた。

伝言掲示板には
メグのおうちの最寄駅について、
「あとの急行が先に到着します」ってテロップが流れている。

メグはいつもわざと
各駅電車に乗る。

一分でも一秒でもいいから
帰宅時間を遅らせたかった。

おじいちゃんのおうちは古い一軒家で
外観からも室内の湿った雰囲気がにおってきそうだった。

大人になったらお金持ちになって
地上からではてっぺんが見えないくらいの
タワーマンションに住みたい。

陽当たりが良すぎて
目が痛くなっちゃうくらい、
大きな窓がある部屋。

システムキッチンで
バスタブは三人くらい余裕で入れそうなくらい広くて
ベッドも必要以上のサイズを置いてやるんだ。

夢をみるのは簡単で、
言うのも三秒。

実現はきっと
一生しない。
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