先生の金魚
女の子はなんにも言わないまま、
また黒板に顔を向けてしまった。

メグは教室の後ろを見て、
張り出されたクラスメイトの名前を一から順番に目で追った。

入学式。
ほとんどのクラスメイトが初対面だった。
席順はランダムで、出席番号順じゃなかった。

もう一回、盗み見るみたいにして
女の子の胸元の名札を見る。

(くれない)

張り出された名前達を、
く、く、って心で唱えながら辿っていく。

く…、く…………。

(くれない)小夜子(さよこ)

紅い、夜の子。

黒井さん、じゃないんだなとか
本当にくだらないことを考えちゃった。

「あ」

名前を追っていたメグの鼓膜に
紅さんの声が届いた。

小さい声だった。

教室に担任の先生が入ってきたところだった。

その瞬間の、
恋を知らないメグが
どうしてせんせーに恋をした、って
一瞬で理解できたのか不思議だった。
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