先生の金魚
「じゃあせんせー。キスして」

「は…」

「契約しようよ。メグと。せんせー、メグを呪って」

「なん……」

「せんせーのキスでメグを呪って。一生忘れなくさせて。一度だけでいい。それだけを救いにしてメグはいい子にして生きていくから。もう悪いことしないから。一度だけ、メグを呪って」

「小夜子には…」

「絶対に言わない。言うわけないじゃん。せんせーがサヨちゃんだけの″ナツくん″で居ることを誓うのなら、この一瞬だけメグのものになって。一生消えない共犯者になってくれるのならメグはもうサヨちゃんから何も奪わない。お願い、由良せんせー」

「っ……」

せんせーの瞳が揺れた。

サヨちゃんへの潔白と
メグの脅しを天秤にかける。

重く、傾けることなんて簡単だ。

「呪ってくれないならメグ、サヨちゃんの人生、一生をかけて壊しちゃうかも」

ガタンッて大きな音を立てて
パイプ椅子が倒れた。

上半身を乗り出して
メグの後頭部に回された手のひら。

噛み付くようなキス。

殺してほしかった。

そのまま窒息させて。

ここで殺して。

この呪いで
今ここで
死んでしまいたかった。

来世なんて要らない。

恋は地獄だ。

せんせーのぬるいくちびる。

傾いた天秤と約束をブチ壊す瞬間を
サヨちゃんに見せてあげたい。

せんせー、ごめんね。

メグはサヨちゃんを許さない。

地獄に堕ちるのはメグじゃない。

恋を奪ったサヨちゃんなんか
死ねばいい。

「迴って呼んで」

「めぐり……」

「せんせ、由良せんせー…好き…」
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