霧の向こうの青い鳥

彼女は雨の音を聴きながら


窓の外では雨が降り続いていた。優子は一人でアパートのキッチンに座り、冷めたコーヒーを飲みながら、遠い日の記憶に浸っていた。


5年前の夏、彼女は偶然出会った男性と恋に落ちた。彼の名前は健太郎。ジャズバーでアルバイトをしながら、小説家を目指していた。二人はよく深夜まで歩き回り、人生や夢について語り合った。



しかし、その関係は長くは続かなかった。健太郎は突然、小説の取材のために海外へ旅立ってしまった。優子は彼からの連絡を待ち続けたが、それは叶わなかった。
雨音が激しさを増す。優子はふと立ち上がり、古いレコードプレーヤーにジャズのレコードをかけた。懐かしい音色が部屋に流れる。



彼女は窓際に立ち、濡れた街を見下ろした。そこには無数の物語が息づいている。もしかしたら、健太郎も今どこかでこの雨を見ているかもしれない。
優子は深呼吸をした。過去は過去。これからは自分の物語を紡いでいこう。そう決意すると、彼女の心に小さな光が灯った。
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