霧の向こうの青い鳥
優子が窓際から離れようとした瞬間、携帯電話が鳴った。見知らぬ番号からだった。
「もしもし、優子さんですか」知らない女性の声が聞こえた。
「はい、そうですが…」
「申し訳ありません。健太郎の母親です」
優子の心臓が跳ね上がった。5年ぶりに聞く健太郎の名前。

しかし、その母親の声には暗い影が潜んでいた。
「健太郎が…事故に遭いました」



その言葉を聞いた瞬間、優子の世界が止まった。
健太郎は南米で取材中、山岳地帯で転落事故に遭ったという。命に別状はないものの、長期の入院が必要な状態だった。


「彼が意識を取り戻した時、あなたの名前を呼んでいたんです」
優子は息を呑んだ。5年間、彼女の中で眠っていた感情が一気に溢れ出した。


「どこの病院ですか」優子は震える声で尋ねた。


翌日、優子は飛行機に乗っていた。目的地は南米の小さな町。窓の外を流れる雲を見ながら、彼女は考えた。
人生は予測不可能だ。5年前、彼女は健太郎を失ったと思っていた。しかし今、彼女は彼のもとへ向かっている。



飛行機が着陸する頃、優子の心には決意が芽生えていた。今度こそ、彼との物語を最後まで紡ぎたいと。




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