霧の向こうの青い鳥
病院に着いた優子は、深呼吸をして病室のドアを開けた。そこには、頭と左足に包帯を巻かれた健太郎が横たわっていた。彼の顔には擦り傷が残り、右腕には点滴が刺さっていた。


健太郎は目を開け、優子を見つめた。「やあ」かすれた声で彼が言った。「君を待っていたんだ」
優子は複雑な感情に襲われた。5年前に別れた時の怒りと悲しみ、そして今目の前にいる彼への心配と安堵が入り混じっていた。


「どうして」優子は静かに言った。


「どうして5年間、連絡をくれなかったの?」


健太郎は目を逸らした。

「怖かったんだ。自分の夢を追いかけることで、君を傷つけてしまうのが」


優子は苦笑した。


「でも、結局傷ついたのはあなたじゃない」


沈黙が流れる。外では雨が激しさを増していた。


「実は…」優子は躊躇いながら口を開いた。「私、去年結婚したの」
健太郎の目が大きく開いた。驚きと後悔が彼の顔を横切る。


「おめでとう」彼は無理に笑顔を作った。「幸せなの?」


優子は窓の外を見つめた。「幸せよ。でも…」彼女は言葉を探した。「でも、あなたのことを完全に忘れられたわけじゃない」


二人は再び沈黙した。病室に流れる時間が、まるで5年前から続いているかのようだった。


「帰ってきてくれてありがとう」健太郎が静かに言った。
優子は彼の手を握った。「あなたが生きていて良かった」


その瞬間、優子の携帯が鳴った。夫からだった。
優子は電話を見つめ、そして健太郎を見た。彼女の心の中で、過去と現在が激しくぶつかり合っていた。


雨は止むことを知らなかった。
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