霧の向こうの青い鳥

優子は病室を出て、廊下の窓際に立った。携帯電話の画面には「夫」という文字が光っている。彼女の指は震えながら、通話ボタンに触れた。


「どこにいる」低い、怒気を含んだ声が響く。

「病院よ。友人のお見舞いに」優子は嘘をつく。声を抑えようとしても、わずかに震えが混じる。


「嘘をつくな」夫の声が荒々しくなる。「すぐに帰ってこい」


通話が切れた瞬間、優子は壁に寄りかかった。彼女の左腕には、まだ薄く青あざが残っていた。


優子の人生は、健太郎との別れ以降、急降下していった。両親を事故で亡くし、

会社も倒産。底なしの孤独の中で、彼女は現在の夫と出会った。最初は優しかった彼も、結婚後すぐに豹変した。


病室のドアが開き、健太郎が車椅子で出てきた。


「大丈夫か？」彼の声に、優子は我に返る。


その瞬間、エレベーターが開き、スーツ姿の男が飛び出してきた。


優子の夫だった。



夫が優子の腕をつかむ。

「何度言えばわかる」

健太郎は目を見開いた。

優子の恐怖に満ちた表情、夫の荒々しい態度。


全てを瞬時に理解した。
「彼女から離れろ」健太郎は車椅子から立ち上がろうとする。


「あんたに関係ない」夫が吐き捨てる。


看護師たちが駆けつけ、騒動は収まった。

しかし、健太郎の目には決意の色が宿っていた。
その夜、優子は夫に連れられて帰宅した。しかし翌朝、彼女の携帯に見知らぬ番号から着信が。
「逃げろ」健太郎の声だった。「今すぐに。俺が全て手配した」
優子は迷った。しかし、健太郎の声に込められた真摯さに、彼女の心が動いた。