霧の向こうの青い鳥
7階で降りると、健太郎が待っていた。彼は優子を見るなり、安堵の表情を浮かべた。


「ここだ」

健太郎は一室のドアを開けた。

「他の住人とは顔を合わせないから心配するな」
部屋に入ると、そこには最低限の家具が揃っていた。窓からは街の景色が一望できる。


「本当にいいの?」優子は不安そうに尋ねた。


「当たり前だ」健太郎は真剣な表情で答えた。


「君を守るためなら何だってする」


優子は複雑な思いに包まれた。


感謝と戸惑い、そして健太郎への言いようのない感情が交錯する。


「少し休め」健太郎は優しく言った。「何か必要なものがあれば言ってくれ」


優子はソファに腰掛けた。窓の外を見つめながら、
これからの人生について考える。


夫から逃げ出し、健太郤の助けを借りる。この選択が正しいのかどうか、まだ確信が持てない。



しかし、久しぶりに感じる安堵感。
それは、健太郎がもたらしたものだった。


「ありがとう」優子は小さく呟いた。
健太郎は黙ってうなずいた。
二人の間に流れる沈黙は、これからの複雑な関係を予感させるものだった。


窓の外では、夕日が沈みかけていた。優子の新しい人生の幕開けを告げるかのように。
< 6 / 18 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop