キスで溺れる同居生活〜年下御曹司は再会した幼なじみを愛し尽くしたい〜


 やだやだ、なんでなの。
 あんなの、見たくない。


「おかあさん……っ」


 お母さんが知らない男の人と腕を組んで歩いてるところなんて、見たくなかった。


「うぅ……っ」

「つづ、見るな」


 あやくんがぎゅっと抱きしめてくれた。
 その瞬間、糸がプツンと切れたみたいに今まで我慢していたものが溢れ出す。


「ふっ、うわああああ……っ」


 人目も気にせず大声で泣きじゃくってしまった。
 こんなに泣いたのはいつぶりだろう。

 本当は心のどこかで信じていたかった。
 お母さんは出て行ったんじゃない、いつか帰って来てくれるって信じたかった。

 私のことを捨てたんじゃないって、そう思いたかったの……。

 でも、違った。
 やっぱりお母さんは私とお父さんを捨てて、知らない男の人を選んだんだ――。


「うっ、おかあさん……っっ」


 ねぇお母さん、どうして?

 どうして私を捨てたの?
 私のこと、好きじゃなかったの?

 それでも私は、お母さんのこと大好きだったよ。


「つづ、帰ろう」


 あやくんの声は優しかった。
 私のことを抱きしめているから表情は見えないけど、声音は今までで一番優しかった。


「つづの居場所は俺でしょ?」

「っ、あやく……っ」


 それが雇い主として、という意味だったとしても、今の私には救いの言葉だった。


「……かえる」

「ん、帰ろう」


 あやくんは私の瞼にキスを落とし、自分の上着を私にかけてくれた。
 号泣してぐちゃぐちゃになった顔を隠すように。

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