ヤンキー君が可愛すぎて困る!
わたしたちは学校に戻って、教室に入った。

ちょうど、二時間目と三時間目の間の中休みだった。

「あれ、戻ってきた!」

「え?桐生が戻ってきてるけど?」

「こんなの初めてじゃね?」

「中川さん、なに使ったの?」

「脅し? 暴力? こわww」

みんなが驚きながら笑ってる。

そんなに驚くかな?でも、さっき、誰も追いかけたことないって言ってたな。脅しも暴力も使ってないのに。

「てか、桐生がなんかしたんじゃないの? 中川さんが脅しとかするわけないし」

「もしかして、戻る代わりに奢れ、とか、喧嘩の練習台にするとか、脅したんじゃないの??」

ああ、みんなが変な噂を言ってるよ......。そんなんじゃないのに。でも、本当のことは言えないから......。
桐生くんがそんな風に言われるのは嫌だし。

「ちがうよ!」

「わ、わたしが、桐生くん脅したの! 戻ってくれないとビンタするって」

わたしはとっさに嘘をついた。

桐生くんはこっちを困惑した顔で見つめた。

「え、中川さんが?」

みんなの視線がわたしに集まる。ふう、よかった。桐生くんが誤解されなくて。

「ビンタだけで普通戻る? あの桐生が?」

「ないでしょ。てか、中川さんが脅しとか、そういう人だったの...?」

あ、わたしも誤解されちゃった。けど、まあいっか。

「...違う。中川は悪くない。誤解するな」

桐生くんは必死な表情で弁解してくれた。

そういえば、桐生くんって本当にヤンキーなのかな?

優しい気がするけど......。あとで聞いてみよう。

「どっちがほんとなの?」

クラスメイトはみんな困惑している。

「さっきのは嘘です! ごめんなさい。でも桐生くんには脅しとかされてないよ」

わたしがそう言うと、安心したようで話題は別の話に変わった。

「結衣、まじで大丈夫? 本当に脅されてたりしない?」

愛莉が、心配そうに声をかけてくる。

「まじで大丈夫! 全然。なにもされてないよ」

わたしは愛莉の言葉をおうむ返しして、心配させないように少しふざけて言った。それにしても、愛莉ってめっちゃ優しいな。

「それならいいけど」

愛莉は違う話題にうつった。

それにしても、桐生くんが甘党とか、可愛すぎない? ギャップありすぎて可愛い。

「でさ、だったんだけど......」

「って、結衣聞いてる?」

「あっ、ごめん。聞いてなかった! もう一回言ってくれる?」

「もー! 結衣ってやっぱり天然だね」

「てんねん?」
漢字が結びつかなくて、考えていると

「今ので確信した。結衣、絶対天然だよ。しかも、自覚ない感じがさらに」
あぁ、天然って天パってことか!

「自覚あるし! いっつも寝癖直しとか大変だし。今日も一応一時間かけたんだけど、直ってなかった?」

「え? あ、違う違う。天パってことじゃないよ。寝癖全然ついてないし」
「??」
わたしが首を傾げていると、

「結衣って超可愛いー」
と言って抱きついてきた」

「うおっ」
「ずっと友達でいようね!」
「うん!」

わたしは迷いもなく返事をした。やったー、転校初日で友達できたー。あれ、桐生くんも友達って言っていいのかな?
わたしは桐生くんの方を見る。

そういえば、初めは気づかなかったけど、イケメンだな......。

怖いとしか感じなかった切れ長の目も、あのことを知ってからは綺麗に見える。それに、金髪の髪も。サラサラで、触ってみたい……。なんて、わたし何考えてるの!

わたしがぼーっと桐生くんの方を見てると、

「何?」
とまた睨まれた。
「あ、ごめん」

わたしは慌てて目を逸らす。そんなにずっと見つめるなんて、失礼だったよね。

「結衣。今日、遊びに行かない?」

「今日? うん、いいよ」

愛莉が遊びに誘ってくれた。

「どこ行くの?」
「カラオケ」
カラオケ? わたし、行ったことないな。いつも地元の友達と家とか公園で遊んでいたから。
でも、
「行きたい!」

「オッケー。あとさ、男子来るけど、いい? 三人くらい」

「いいよ。このクラスの人?」

「ううん、他のクラスとかも含めて。合コンてやつ」
合コン......なんちゃらコンクール? 合唱コンクールみたいな?

「合唱コンクール?」

「うーん。なんか近いかな。まあそう思っておけばいいよ」

「わかった」
「......オレも言っていい?」
「え、桐生?」
「桐生くんも来るの?」

「うーん別にいいけど......」
愛莉がしぶしぶ言う。
「いいよ。わたしは! 大歓迎!」
桐生くんのこと、もっと知りたいし。
「じゃあ、学校終わったらすぐ行こう。今日四時間だし」
「うん!」
「門限ある?」
「わたしは一応七時だよ」
「わかった。桐生は?」
「......オレは四時」
「四時? 早すぎない?」
「しょうがないだろ」
「親に言って伸ばしてもらえないの?」
「親いねぇし」
桐生くんはうつむいてぼそっと呟いた。
え? どういう意味? 親がいないとかそんなこと、ある?
「......」
気まずくて、みんな黙っちゃった。
「ま、事情あるなら先帰ってもいいし」
と愛莉が言う。
キーンコーンカーンコーン
授業が始まるチャイムが鳴った。三時間目、四時間目も終わり、終礼をした。
「さようなら」
と先生が言って
「さようなら」
とみんなが元気に返した。でも、わたしは、さっきの桐生くんのことが気がかりで仕方がない。親がいない、ってどういうこと? 一人暮らしってことかな。なんか、いつもと様子が違ったし。
わたしが考え事をしていると、
「結衣、行こ」
「う、うん。桐生くん......」
桐生くんは小さく頷くと後ろに着いてきた。
うう、気まずい......。学校の外に出てきたのに、みんな無言だ。
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