悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。
私がルーカスに最後に会ってから、八年もの年月が経っている。そのため、彼だって当然大人になったと思っていた。だが、今の話を聞く限り、昔のルーカスから成長していないのではないかと思ってしまう。
私が知っているルーカスは、気性が荒くて乱暴者だ。弱い者を手下のように従えている。
お父様が爵位を剥奪され学院を去ってから、私はルーカスに会っていない。ルーカスはあの頃のままだとしたら、結婚なんてなおさらあり得ない……
考え込んでいる私に、遠慮がちにお兄様が聞いた。
「セシリアは、ルーカス様から求婚されたんだろ? 」
その言葉に飛び上がりそうになる。お兄様も、知っているんだ。
そんなお兄様に、私は平静を装って聞いた。
「どこからその話が出てきたの? 」
薄暗い部屋の中で、時折窓が鋭く光った。そして数秒後には雷の音。雨が激しく打ちつけ、風で窓ががたがた揺れた。聞こえるものといったら、雷と雨風の音のみ。
そんななか、お兄様が再び静かに口を開いた。
「ルーカス様自ら、俺に教えてくださった」
「……え? 」
予想外のその言葉に、私はぽかーんと口を開けている。
この時代の結婚といったら、家と家との結婚が主流だ。いわゆる政略結婚というもので、公爵家ならばなおさらだ。だが、ルーカスは自ら望んで私を婚約者に指名したのか。誰かに嵌められているという心配は無くなったが、さらに謎が深まるばかりだ。
ルーカスはなぜ、八年も会ったことのない私に求婚したのだろうか。
「俺が公爵家の騎士になれたのも、もとはセシリアの兄だったからのようだ」
何それ……
「セシリアの兄と分かったら、ルーカス様に引き抜かれて騎士団に入れた」