悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。
「まあまあ、兄上。セリオさんに罪はないんですよ」
ジョエル様が笑顔でフォローしてくれる。どうやらジョエル様にもバレていないようでホッとする。私の変装技術は、予想以上に高いのか。それとも、この兄弟が鈍感なのか……
「さあ、兄上。セシリア嬢は帰られました。
セシリア嬢に惚れていただくためにも、今まで以上に仕事を頑張らなければならないですね? 」
ジョエル様はそう言い残して去っていった。そして、ルーカスと二人きりになった私は、再びドキドキし始める。
ルーカスは私に何て言うのだろう。絶対、セシリアの話をするよね?
それに私……ルーカスとキスしてしまったんだ。もちろん好きなんて気持ちはないのだが……してしまったのだ。
あの時のルーカスは、紳士でとてもかっこよかった。ルーカスなんて好きでもないのに、思い出すだけでドキドキする……
「クソチビ」
呼ばれてはっと我に返った。私としたこそが、ルーカスを思い出してぼーっとしていた。私だって妄想に耽っていることに気がつき、ぶんぶんと首を振る。こんな私を睨みながらも、ルーカスは言う。
「お前は恋をしたことがないから、分からないのだろう。
今、俺の心の中に、ピンク色の嵐が吹き荒んでいることが」